今年も折り返しの時期になりました。
2023年上期において、個人的趣味嗜好にあった映画作品をつらつらあげていきたいと思います。
今回の特徴は、今年は日本映画でまだインパクトのある作品に出合っていないと感じていること、国際映画祭で評判の作品に趣味にあったものが多かったことです。
それでは10位から
10位 不思議の国の数学者
ストーリー
脱北の数学者ハクソンは身元を隠し名門高校の警備員として働くが、教育の機会均等のため社会的配慮対象者で入学した男子生徒ジウに数学を指導してほしいとお願いされる。やむなく数学を教えることになり、それが2人の人生の大きな転機となっていく。
監督・制作
監督は今回が初の長編映画となる、パク・ドンフン。配給は、クロックワークス、2022年公開の韓国作品です。
俳優
脱北警備員ハクソンに、ベテラン名優のチェ・ミンシク。パク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」では主演を努めています。
男子生徒ジウには、ドラマ「秘密の森2」のキム・ドンフィ。
ハクソンの唯一の友人にはドラマ「ミセン」「マイディアミスター」のパク・へジョンが配役されています。
コメント
まず、久しぶりにみるチェ・ミンシクはさすがの貫禄の演技です。そして若手のキム・ドンフィも負けずにとてもうまい掛け合いをしています。韓国の受験競争や南北関係を上手く使っており、韓国独特の映画としています。ストーリーは王道(既視感もありますね)のヒューマンドラマものですが、2人の演技が素直に感動させてくれます。
9位 ベネデッタ
ストーリー
17世紀のイタリアで聖母マリアと対話し奇跡を起こす少女と言われていたベネデッタは、6歳の時にテアティノ修道院に出家する。成人したベネデッタは全身に激しい痛みが襲うようになり、見かねた院長は家族の暴力から逃げてきたバルトロメアを同室にし身の回りの世話をさせるようにした。ベネデッタは体に聖痕があらわれ奇跡が度々起こりはじめ権威を強めていくが、ベネデッタとバルトロメアとの女性同士の情欲が明るみに出たため糾弾されていく。
監督・制作
監督はフランスのベテラン、ポール・ヴァーホーベン。「ロボコップ」「氷の微笑」「トータル・リコール」「スターシップ・トゥルーパーズ」等話題作・ヒット作を連発した監督です。
配給はクロックワークス、2021年公開の作品です。
俳優
監督の前作「エル ELLE」にも出演したフランスの人気女優ヴィルジニー・エフィラを配役。
相手役にはギリシアの女優ダフネ・パタキアを抜擢しました。
修道院長にはベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞したシャーロット・ランプリングが演じました。
コメント
とにもかくにも禁欲と倒錯が入り混じる17世紀の世界を、監督独特の世界観で巧みに演出しています。ヴィルジニー・エフィラの演技は凄まじくも妖艶で、大画面に引き寄せられる魅力が炸裂しています。
8位 TAR/ター
ストーリー
ベルリンフィルの首席指揮者に就任し、各賞を受賞し飛ぶ鳥を落とす勢いのターは、唯一の未録音であるマーラーの交響曲第5番をライブ録音して販売する計画だが、高い水準を求めているため苦闘している。その中、若手指揮者が自殺、アシスタントのフランチェスカとの不協和音、恋人のシャロンとの関係悪化等、徐々に歯車が狂いだしていく。唯一の喜びは新人チェロ奏者オルガの存在であったが、それが楽団との関係に亀裂が走る。
監督・制作
アメリカのトッド・フィールド監督の16年ぶりの新作。作品数は少ないものの「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」と高評価の作品を制作しています。
配給はギャガ。2022年公開作品
俳優
指揮者のターに「ブルージャスミン」「エリザベス」「キャロット」のケイト・ブランシェットが主演。フランチェスカに「燃ゆる女の肖像」のノエミ・メルラン、シャロンにドイツのニーナ・ホス、オルガに今回俳優デビューのソフィー・カウアーが配役されました。
コメント
もはやケイト・ブランシェットのための作品であり、彼女の存在感・演技力が凝縮された作品です。絶頂期から転落の心の変化の表現は恐れ入ったとしか言いようがありません。
映画としては実話のように感じるほどのリアリズム感があり、クラシック音楽業界や交響楽団の保守性・権威性といった背景を繊細に描いた素晴らしい脚本です。
7位 ジュリア(S)
ストーリー
2052年のパリで80歳の誕生日をむかえたジュリアは、これまでの充実した人生に満足しつつ、過去を振り返り別の人生を歩んだかもしれない4つのシチュエーションを想像していた。①ベルリンの壁崩壊を知りベルリンへ向かう日にバスに乗り遅れなっかたら?②本屋で彼に出会っていなかったら?③シューマンコンクールの結果が違っていたら?④私が車を運転していたら? この4つの人生の中、どのように幸せな今につながったのか。。。
監督・制作
監督はフランスの新鋭、オリバー・トレイナー。配給クロックワークス、2022年公開作品です。
俳優
主役のジュリアには、フランスのルー・ドゥ・ラージュを配役。ジュリアの初恋の相手には、フランスのラファエル・ペルソナ。
コメント
フランス映画らしいやや難解な映画ながら、お洒落な場面設定、テンポよい展開、心地いいラストシーンは日本人にもハマる要素が満載です。
また、人生とは偶然性と自らの手で切りひらく必然性が相まって作り出すこと、そしてどのような人生にも肯定性があると教えてくれます。
6位 ザ・ホエール
ストーリー
孤独な引きこもり生活を送る体重272キロの中年男性チャーリーは、最愛のボーイフレンドのアランを亡くしたショックで過食を繰り返していた。また、大学のオンライン文章講座の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否していた。自身の死期が近いことを悟ったチャーリーは、アランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠の娘のエリーを呼び寄せるが、彼女は学校生活等多くの問題を抱えていた。
監督・制作
監督は、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞の「レスラー」、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞受賞の「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー。
2012年初演のサミュエル・D・ハンターの演劇が原作となっています。
配給はキノフィルムズ、2022年12月公開作品です。
俳優
「ハンナプトラ」シリーズ出演し人気を博したがメンタルを崩しブランクを経験した、ブレンダン・フレイザーが主演、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。また、ドラマ「ストレンジャー・シングス」に出演のセイディー・シンクが娘エリーを熱演しています。
コメント
ほぼ一週間の出来事を綿密に綴った脚本、そして映画に上手くアレンジした脚色は素晴らしく、淡々と進むみながらも飽きさせない緊張感を含んだストーリーです。そして、何よりもブレンダン・フレイザーの卓越した演技には驚きですね。
5位 怪物
ストーリー
大きな湖を望む郊外の町で、息子の湊を愛するシングルマザー早織が平穏に暮らしていたが、湊のスニーカーが片方なくなったり、水筒から泥水がでてきたりと、気にかけていた。そして湊が保利先生から殴られたり嫌われたりしてると訴えた。早織と学校の対決から地方新聞にでも大きく報じられ、すべて解決したと思ったが。
監督・制作
カンヌ国際映画祭常連で「万引き家族」でパルム・ドールを受賞した是枝裕和が監督、「カルテット」「anone」「大豆田とわ子と三人の元夫」等人気連続ドラマを連発している坂元裕二が脚本を担う。本作品でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞しました。また、「ラストエンペラー」等海外でも活躍した坂本龍一が音楽を担当しています。
配給は東宝、ギャガ、2023年公開作品です。
俳優
シングルマザーの早織に安藤サクラ、保利先生に永山瑛太を配役。また、田中裕子、高畑充希、中村獅堂、等実力派俳優が脇を固めています。
早織の息子湊に黒川想矢、その友達に柊木陽太 の子役を抜擢しています。
コメント
是枝裕和監督、坂元裕二脚本と、日本最強のタッグでカンヌに参戦した作品です。是枝監督は自ら脚本を書くケースが殆どのため、今回はヒューマンドラマと監督得意の分野ながらテイストは若干異なり良い相乗効果が出ています。美しくも残酷な真実が明らかになっていくストーリーは心を強く打ちますね。また、是枝監督の子供の演出はいつもお見事で、今回も輝いています!
4位 AIR エア
ストーリー
ナイキ本社に勤めるソニーは、CEOのフィルからバスケットボールシューズ部門を立て直すよう指示される。しかし、コンバースとアディダスの2大巨人企業に占められている市場に食い込むことは困難を極める。そういう中ソニーはNBAデビューしたばかりの無名の新人マイケル・ジョーダンにターゲットを絞り逆転を狙う。
監督・制作
監督は、「アルゴ」でアカデミー賞作品賞を受賞したベン・アフレック、配給はワーナー・ブラザーズ、2023年公開の作品です。
来年のアカデミー賞での期待の作品の一つです。
俳優
ベン・アフレックはナイキCEOフィルの役も担う。主演のソニーに朋友マット・デイモンを起用しています。
コメント
ナイキ企業発展のノンフィクションながらヒューマンドラマ要素を前面に押し出した、熱血漢のストーリーです。80年代の音楽が合わさり、心に大いに響く作品となっていますね。
3位 フェイブルマンズ
ストーリー
サミー・フェイブルマン少年は映画館を怖がっていたが、「地上最大のショウ」を観て映画に夢中になり、さらに8ミリを与えられて映画撮影に没頭していく。父はGA社にスカウトされ一家はアリゾナに引っ越すことになり、父の同僚且つ親友のベニーも一緒に移る。引っ越し後心が沈む母を励まそうと父がサミーに8ミリ用編集機を買い与え、一家とペニーで行ったキャンプ旅行でサミーが撮ったフィルムを編集し映画製作するよう依頼する。サミーはフィルムを編集するが背景に映りこむ母の秘密を知り葛藤する。そしてペニーを置いてカリフォルニアに引っ越すが。
監督・制作
監督は巨匠スティーヴン・スピルバーグ。脚本はトニー・クシュナーと、鉄壁コンビ。
ゴールデングローブ賞作品賞、監督賞受賞。トロント国際映画祭観客賞受賞。アカデミー賞は作品賞監督賞はじめ7部門のノミネート(残念ながら受賞なし)。
俳優
少年サミーに、TVドラマ中心に活躍のガブリエル・ラベル。サミーの母に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「マリリン 7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズ、サミーの父に「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・ダノが好演しています。
コメント
スティーヴン・スピルバーグ監督の少年時代の原体験を描いています。映画に夢中になる少年がニュージャージ、アリゾナ、カリフォルニアと移り住みながら心身ともに成長する物語で清々しい気持ちになりますね。また、家族の在り方を性善説に描き、ハートワームにしてくれる家族愛の物語でもあります。非常に上手く制作された作品です!
2位 バビロン
ストーリー
1920年代のハリウッドで、サイレント映画のスター、ジャックは毎晩開かれる豪華なパーティの主役として栄華を極める。そのパーティ会場で、スターを夢見る新人女優のネリーと映画製作を夢見る青年マニーが、運命的な出会いを果たす。若く恐れを知らないネリーは特別な輝きで周囲を魅了してスターダムへのし上がっていく。マニーもまたジャックの助手として映画界でスタートする。しかしサイレント映画からトーキー映画へと移り変わる中、3人の運命が変わっていく。
監督・制作
監督・脚本は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル。配給は東和ピクチャーズ、2022年公開の作品です。
デイミアン・チャゼル監督と「ラ・ラ・ランド」「セッション」等でタッグを組む音楽担当はジャスティン・ハーウィッツです。ゴールデングローブ賞作曲賞を受賞しました。
俳優
ハリウッドスタージャックにブラッド・ピット、新人女優ネリーにマーゴット・ロビーを起用。また、マニーにディエゴ・カルバを抜擢。他にもジーン・スマート、トビー・マグワイア、リー・ジュン・リー、ジョヴァン・アデボ、と豪華な俳優で固めています。
コメント
デイミアン・チャゼル監督の待望の新作は、初期ハリウッド映画時代の3時間超の歴史大作でした!怒涛のサーカスのようなストーリーと映像美、そして素晴らしい音楽が混ざり合い人間臭さ満載のインパクト、とこれでもかと迫ってきます。マーゴット・ロビーの渾身の演技もあり、これぞ映画という作品です。
1位 逆転のトライアングル
ストーリー
インフルエンサーとして人気のヤヤは、豪華客船クルーズに招待され、男友達のカールがお供することとなる。ロシアの新興財閥の男、武器製造会社経営の男、会社を売却した男、等乗客は桁外れの金持ちばかりで、そのセレブをもてなす白人乗務員は彼らの高額チップを期待していた。また、船の下層階には料理や清掃の有色人種のスタッフが働いていた。ある夜船長がディナーを開催したが、嵐へ突入し通りがかりの海賊に手榴弾を投げられ沈没してしまう。ヤヤやカールをはじめ何人かは救命ボートで無人島に流れ着いたが、そこではサバイバルスキルを持つ清掃員が女王として君臨する。
監督・制作
監督は「ザ・スクエア 思いやりの聖域」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したリューベン・オストルンド。配給はGAGAで、2022年公開の作品です。
本作でもカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞して、リューベン・オストルンドは2作連続の受賞を果たしました。
俳優
ヤヤに映画初主演のチャールビ・ディーン(2022年8月敗血症により死去。早すぎる急逝ご冥福を申し上げます)、ヤヤの男友達に「ザリガニの鳴くところ」のハリス・ディキンソン、船長に「スリービルボード」のウディ・ハレルソンが演じました。
コメント
2023年上半期の個人的ナンバー1はこの「逆転のトライアングル」でした。
階級社会への痛烈な風刺とシュールな展開が続くが、映画としても見どころ満載です!また船長とロシア富豪との掛け合いは味があって最高な場面です。このような差別的、経済的問題をここまで風刺して作品にしてしまうのはヨーロッパ映画ならではです。監督の次作にもとても期待してしまいます。
個人的2023年上期の映画ベスト10は以下の通りです。みなさまは如何だったでしょうか。
10位 不思議の国の数学者
9位 ベネデッタ
8位 TAR/ター
7位 ジュリア(S)
6位 ザ・ホエール
5位 怪物
4位 AIR エア
3位 フェイブルマンズ
2位 バビロン
1位 逆転のトライアングル