2023年3月13日(日本時間)に第95回アカデミー賞の結果が発表されました。
下馬評通り、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下エブエブ)の7冠受賞で幕を閉じました。
しかも主要部門6部門(作品、脚本、監督、主演女優、助演男優、助演女優)と圧勝!
エブエブの賞取りレースの推移及び他の作品について等を振り返ってみたいと思います。
作品賞結果
作品賞候補は以下の10作品でした。
米国の興収でみると、1,000万ドルに達していない3作品(TAR、逆転のトライアングル、ウーマン・トーキング)は、さすがに観客の支持がないとみられ苦しいですね。
また、1億ドル以上の興収をあげた3作品は、大手配給会社で娯楽中心作品であり、その中でも可能性がある「トップガン」は主役のトム・クルーズとこの賞の相性が悪い点が減点。
更に「西部戦線異状なし」はネット配信作品であり、
昨年の作品賞が配信作品の「コーダ」であったことからも、連続受賞は難しい。
よって、
「イニシェリン島の精霊」「エブエブ」「フェイブルマンズ」
の3作品の戦いであることは賞レース前半戦で見えてきていましたね。
作品名 | 配給 | 米興収 ドル |
---|---|---|
西部戦線異状なし | ネットフリックス | ー |
アバター ウェイ・オブ・ウォーター | 20世紀 | 6億7,618万 |
イニシェリン島の精霊 | サーチライト | 1,058万 |
エルヴィス | ワーナー | 1億5,104万 |
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス | A24 | 7,433万 |
フェイブルマンズ | ユニバーサル | 1,734万 |
TAR ター | フォーカス | 677万 |
トップガン マーヴェリック | パラマウント | 7億1,873万 |
逆転のトライアングル | BACフィルムズ他 | 460万 |
ウーマン・トーキング 私たちの選択 | AmazonUA | 545万 |
ちなみに「逆転のトライアングル」はカンヌ国際映画祭でパルムドール(最優秀作品賞)を受賞しましたが、カンヌとアカデミーの同時受賞は非常に少なく、最近同時受賞した「パラサイト 半地下の家族」は64年ぶりのW受賞でした。
アカデミー賞前哨戦の賞レース
まず8月のヴェネチア国際映画祭からアカデミー賞の前哨戦レースが始まります。
出足でとても重要なのが、トロント国際映画祭!
最近では「ノマドランド」「グリーンブック」がトロント、アカデミー賞のW受賞でした。
また、「ラ・ラ・ランド」「スリー・ビルボード」「ベルファスト」「ジョジョラビット」はアカデミー賞でも接戦を演じています。
続いてゴールデングローブ賞!
外国人がみたアメリカ映画という観点からの選出です。
トロント、ゴールデングローブといった海外(米国外)からの評価は、
フェイブルマンズ&イニシェリン島の精霊の2作品が突出しました。
月 | 賞 | 最優秀賞 |
---|---|---|
8月 | ヴェネチア国際 | All the beauty and the bloodshed |
9月 | トロント国際 | フェイブルマンズ |
11月 | ゴッサムインデペンデント | エブエブ |
1月 | ゴールデングローブ | フェイブルマンズ/イニシェリン島の精霊 |
1月 | 放送映画批評家協会 | エブエブ |
2月 | 全米監督組合(DGA) | エブエブ |
2月 | 英国アカデミー | 西部戦線異状なし |
2月 | 全米制作者組合(PGA) | エブエブ |
2月 | 全米映画俳優組合(SAG) | エブエブ最多 |
2月 | インデペント・スピリット | エブエブ |
3月 | 全米脚本家組合(WGA) | エブエブ |
ところが2023年に入り、アメリカ国内の批評家の選出による
「放送映画批評家協会賞」により、エブエブが作品賞、監督賞、脚本賞を受賞し、
続く各種組合賞においてもエブエブがことごとく受賞したため
流れが大きく変わりました。
英国アカデミー賞においては、やはり(米国)国外からの評価でもあり、「西部戦線異状なし」が圧勝、エブエブが惨敗しましたが、米国内の映画関係者の評価に変更はありませんでした。
過去10年のアカデミー賞作品賞
回数 | 作品名 | 配給 |
---|---|---|
第85回 | アルゴ | ワーナー |
第86回 | それでも夜は明ける | サーチライト |
第87回 | バードマン | サーチライト |
第88回 | スポットライト | オープン・ロード |
第89回 | ムーンライト | A24 |
第90回 | シェイプ・オブ・ウォーター | サーチライト |
第91回 | グリーンブック | ユニバーサル |
第92回 | パラサイト 半地下の家族 | NEON(CJ) |
第93回 | ノマドランド | サーチライト |
第94回 | コーダ あいのうた | Apple TV+ |
過去10年のアカデミー賞作品賞をみてみると、日本アカデミー賞と異なり、独立系配給会社が5割以上を占めています。更に4/10がサーチライトでした。
しかし、サーチライトは現在ディズニー傘下(これによってフォックスの名が消えました)に入ったため特色が薄れてきており、一方、2012年に設立されてエブエブも配給した 新興会社のA24の勢いが高まっています。
エブエブの勝因
今回、エブエブがなぜこのように支持されたのでしょうか。
まず、マイノリティがトレンドのアメリカ映画界及びアカデミー会員に、アジア映画であり、俳優もほぼアジア系の人種で占められた映画であったことが挙げられます。
アジア系アメリカ人が今やアメリカ内でも力も持ち始めており、そのアジア人のルーツである移民問題についても描かれている本作は娯楽要素だけでなく社会問題の要素もしっかり織り込まれている点が評価につながっていると思われます。
マイノリティのスポットライトも、黒人⇒女性⇒ ときた流れに沿っています。
そして、作品自体「なんだかわからないけど、アクション・SF・コメディ・社会派などなどてんこ盛り状態でスピード感あって新しい」ものであることを、新しいもの好きの文化人に刺さった点も大きそうです。
個人的には、
エブエブ より イニシェリン島の精霊 の方が好みでしたが。。。。
〇第95回アカデミー賞は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の圧勝でした。
〇「イニシェリン島の精霊」「フェイブルマンズ」は後半に失速しました。
〇アカデミー賞の前哨戦レースは前半米国外からの評価であるトロントとゴールデングローブで幕を開け、
後半は全米内の各組合の賞でほぼ固まります。
〇今回は米国外の評価は「イニシェリン島の精霊」「フェイブルマンズ」が高かったが、米国内ではアジア系マイナー映画である「エブエブ」の人気が圧倒的でした。
〇飛ぶ鳥を落とす勢いの A24 の配給により、役者がほぼアジア系である「エブエブ」が作品自身の新しさも加わり、
アカデミー賞主要7部門を制しました。